三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

シグナル / エレファントカシマシ

エレファントカシマシの17枚目のアルバム『町を見下ろす丘』に収録されている曲。都心からちょっと外れた場所にある団地の匂いがしてくるような雰囲気がこの曲にはある。

夜はふけわたり 家までの帰り道

町を見下ろす丘の上立ちどまり

はるか、かなた、月青く

俺を照らす 街灯の下

ベンチに座り、自分の影見つめてた。

 

高度経済成長の頃、郊外に次々作られていった「ニュータウン」と呼ばれる住宅街の中には、丘を切り開いて作られたようなものもあった。そういった住宅街は地形の特性上、坂が多く、高台付近では街を見渡すことができた。曲に登場する「男」も歌詞を見る限り、こうした高台にそびえ立つ団地に住んでいることが想起される。

 

男が立ち止まる«町を見下ろす丘≫というのは、ジブリ映画の『耳をすませば』のラストシーンの風景と重なる。主人公の月島雫は朝早く、天沢聖司に連れられ小高い丘へと向かう。聖司が「秘密の場所」と称した丘は、朝焼けに照らされている街を一望することができた。そんな最高のロケーションで聖司は雫にプロポーズをする―。

 

この映画のモデルとなった舞台は東京都多摩市の桜ヶ丘周辺であるといわれているが、この地域もやはり高度経済成長期に都市整備が進んだ場所である。「シグナル」に登場する「男」もそんな『耳をすませば』のラストシーンのような場所で、朝焼けではなく青い月に照らされながら、1人ベンチに座り自分の影を見つめている。それにしても彼らとは非常に対照的である…。

 

この曲の作詞をした宮本は、東京の郊外にある赤羽台団地の出身である。曲の中でこうした都会のステレオタイプ的な団地像を簡潔に描写することができたのも、やはり長年団地で生まれ育ってきた宮本ならではといったところか。

 

今現在、自分が住んでいる場所も団地付近にあるが、そこでこの曲を聴くと風景と曲が異常なほどにマッチした。曲のメロディーと歌詞から滲み出てくる団地の情緒のようなものが「空間」へと変換され、それが現実の風景に溶け込んでいくような感覚を覚えたのだ。田舎を出て都会に住み始めた身として、ちょっとだけ感動した体験である。【ほぼ日刊三浦レコード11】

 

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