三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

カネコアヤノの圧倒的な存在感―Spotify Early Noise Night vol.5 ライブレポート

 音楽ストリーミングサービス"Spotify"が推薦するライブイベント『Spotify Early Noise Night vol.5』が5月16日、代官山SPACE ODDで開催された。このイベントには、Spotifyのプレイリスト「Early Noise 2018」の、今後ブレイクが期待される新進気鋭のアーティスト達が一堂に会した。これから音楽シーンを賑わしていくような音楽を先取りできるというのは、ちょっとだけ優越感があった。"未発見の宝物"を発掘しに行くような、そんな期待感も高まっていた―。

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 ライブのステージはライブハウス中央にこぢんまりと設けられていた。なんというかそれは、小さめのスタジオで向かい合わせでぎゅうぎゅうで演奏するような感じをそのままパッケージ化をして持ってきたような感じだった。そのステージの構造上、どのアーティストも縦横無尽に動き回ることができない代わりに、ひたすら音に向き合うことに全身全霊を注いでいるように見受けられた。それによって、それぞれの楽器の音と歌声はステージの中心で集まってまとまり、まさに"渾然一体"となっていた。

 そんな"スタジオライク"なステージの周りには"新しもの好きな観客"が360°ぐるりと取り囲む。アーティストと観客との距離は目と鼻の先。ステージの中心で作り出された凄まじい音は渦を巻き、"至近距離"の妙と相まって何とも"ダイレクト"な衝撃として伝わってきた。

 今回のライブ、羊文学、カネコアヤノ、SPiCY SOLそしてドミコと、幅広いジャンルのアーティストが代官山SPACE ODDで様々な色の"音の渦"が巻き起こした。どの音の渦も個性があってすばらしいものだったが、その中でも一際大きく強烈な音の渦で会場を飲み込んでいったのはカネコアヤノであった—。

 アニメの世界からそのまま飛び出してきたような彼女、意気揚々と登場する。そして1曲目の「ロマンス宣言」、めちゃくちゃにグルービーでエッジが効いている。会場の雰囲気は「とんでもないアーティストが出てきた!」という感じになり、同時に驚きと戸惑いの混じった歓声が上がった。彼女の前にライブを行った羊文学が残した、爽やかで儚い雰囲気は一瞬にして、この凄まじい個性の"カネコアヤノ・ワールド"に変えられてしまった―。

 "バンドセット"によるアレンジは音源よりも力強いもので、こてこてのアコースティックサウンドを想定していた観客にとっては、まずはそこで度肝を抜かされたはずである(自分もその中の1人)。"長髪"そして"モヒカンにサングラス"と職人感(?)溢れるメンバー達によって奏でられる盤石のサウンドに負けることなく、カネコアヤノはビリビリと脳天を痺れさせるような歌声を響かせる。そんな音はステージの中央でぶつかり合いながら、やがて大きな渦を形成し、会場を飲み込んでいった。そして終盤、Bruno Marsの「Marry You」のような軽快でノリの良い感じを思わせるアレンジになった「恋しい日々」へ続く。この曲が演奏される頃には会場内にいる観客は、いよいよ彼女の世界観に"ハマって"しまっていた―。

 カネコアヤノは楽しそうにギターをかき鳴らし、目を大きく開けてマイクに感情を込めて朗々と歌う。それは、初期エレファントカシマシの宮本浩次を彷彿とさせるような、どこかただならぬ雰囲気を持ち合わせていた。特に、最後に披露された「アーケード」。この曲にはまさにエレカシ初期の楽曲である「花男」のような、絶唱の中に"ポップさ"と"文学的な詞の美しさ"が感じられた。

 代官山SPACE ODDには特定のアーティストを観たいというよりは、"良い音楽"、"未開拓の音楽"を感じたいという観客の方が多かったように思える。そこには"先入観"や"ひいき目"のようなものは存在しないと言ってもいい。そんな中でのカネコアヤノの盛り上がり。それは間違いなくこの日一番だった。まさに"ベストアクト"というにふさわしいように思える。

 そんな訳でこの次のSPiCY SOLは彼女の勢いに飲み込まれ太刀打ちできないまま、終わってしまった感が否めない。それは大袈裟だが、1985年に開催された世界的なチャリティーイベント『Live Aid』でQueenのパフォーマンスがあまりにも圧巻過ぎて、その後のDavid Bowieの盛り上がりが今一つになってしまっていたのと似ている。それくらいカネコアヤノの巻き起こした"音の渦"はすさまじかった。

 『Spotify Early Noise Night vol.5』のトリを飾ったのはドミコ。DIYのようにサウンドを作ってゆく斬新なライブスタイル。そして2ピースとは思えないくらいの重厚なサウンド。和製The White Stripesと言われているのも頷ける。そんな彼らのパフォーマンス、本当にすばらしかった。それでも...それでも、思い浮かんでしまうのはやはりカネコアヤノ…。彼女のライブパフォーマンスが脳裏から離れない。ライブ終了後、気が付いたら彼女のアルバムを買ってしまっていた—。【ほぼ日刊三浦レコード52】

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セットリスト (カネコアヤノ)

01. ロマンス宣言
02. とがる
03 .春
04. ごあいさつ
05. 祝日
06. 恋しい日々
07. アーケード

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