三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

カッパドキア名物気球、そして昇れる朝日

ネブシェヒルの朝5時、辺りはまだうす暗い。ここはトルコの中央部に位置する、人口30万ほどの都市である。眠い目をこすりながら、ホテルに停留しているバスに乗り込む。世界遺産のカッパドキアのあるギョレメ国立公園のほうに向かって30分ほどバスを走らせると、うす暗い空に一つの球体が浮かんでいるのがぼんやりと見えてきた。カッパドキア名物の一つである気球である。ネブシェヒルのお土産屋に行くと必ずと言っていいほど、気球のかたどったキーホルダーや、気球とカッパドキアの奇岩が描かれたマグネットが置いてある。それくらいに有名なのだ。

 

目的地に着き、バスを降りるやいなや、無数の気球が空に浮かんでいるのが目に入った。まだ太陽が出ていないために、逆光になってシルエットだけになった気球は、傘と柄の部分で色が異なるキノコのような形をした岩々と相まって、おとぎの国に来たかのような風景を作り上げていた。

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石畳の坂をしばらく上っていくと、だんだんと景色は開けてきた。坂を上り、少しだけ火照った体を、ひんやりとした朝風が包み込む。朝のネブシェヒルは夏でも気温が低く、長そでを着ていても丁度いいくらいだった。上った先は小高い丘のようになっていて、360度どこを見渡しても様々な色をした気球が上がっているのが見えた。その間も地上の方では、ボーッというバーナーの音と共に、別の気球が次々と空を彩ってゆく。間もなく日が昇る、というその時を待つかのように、気球たちはクラゲのように悠然と上昇を続けていた。

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5時50分頃、平べったい山の切れ目から太陽が顔を出し始めた。光線は徐々に、波打つように連なっている円錐形の岩々を照らしてゆき、太陽を背にして陰になった気球のシルエットがより際立つ。西の方には上弦の月がぼんやりと見えていたが、その姿をかき消すかのように、東の方から黄金色をした太陽の光が現れてきた。ときより、高度を下げた気球が、丘の上で見物している人の真上を通った。手を振ってきたのでこちらの方も手を振りかえす。10人くらいは乗っていただろうか。その悠然でファンタジックな佇まいとは裏腹に、かなりなダイナミックな飛行だった。

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太陽が山の方から出切ってしまうと、辺りはたちまち明るくなり、色彩のコントラストが一層強くなってゆく。雲一つない青空に、気球は一層映えていた。自然が作り出した奇妙な形をした岩に、人工的な球体が無数に浮かんでいる様は、キャンバスに描かれた絵画のようだった。そんな風景の中で、深く深呼吸をしてみる。枯草に似た匂いに、乾いた土の匂いが混じり合っている。不思議なことにそれは、稲刈りが終わって霜が降り始める頃の澄んだ空気の匂いに似ていた。

 

自然と人間の手で作り出された、時間と共にめまぐるしく変わりゆく風景。わずか1時間ばかりの出来事である。ただ、そこから切り取られた刹那的な瞬間はどれも息をのむくらいに鮮明で美しく、強烈な情景として脳裏に焼き付けられたのだった。

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